イケメンエリート、最後の独身
「謙人さん、大丈夫です。
実は、あのマンション、この先一年は借りる予定なんです。
ソフィアがそう提案してくれて、保険じゃないですけど、東京の住まいは残しておいた方がいいという事になって」
謙人は目を丸くして聞いている。
「それにレースのカーテンさえ閉めておけば何の問題もないですし、私はあの古いところも風情があって気に入ってるんですよ」
そうこうしている内に、タクシーはことだまマンションに到着した。
「そうなんだね…」
謙人は何も言い返せない。
萌絵は順応性が普通の人より優れている。そして、萌絵自身、住まいとか生活レベルとかあまり興味がない。着の身着のままで頑張ってきた人間だから。
謙人は萌絵と一緒にタクシーを降りた。そして、萌絵の方に回り込んだ時、萌絵が慌てているのが分かった。
「え? 謙人さん、タクシー、行っちゃいましたよ」