イケメンエリート、最後の独身


 こんな穢れのない純粋な場所で、たくさんの一般人の中でキスをした事で、謙人の知らない扉が開いてしまった。
 このスリルはたまらない。
 この溢れ出るアドレナインに負けないよう、必死に理性を保つ自分が愛おしくてたまらない。
 今までのデートでこんなシチュエーションになったら、近くのホテルに入ったり、即行で家へ帰った。
 それなのに、今の状況は、悶々とこの気持ちを抑えつけるしかない。もう、拷問を受けているとしか思えない。
 萌絵を抱きたくてたまらないのに、隣では年配夫婦が笑顔で寄り添い、その前では思春期真っ只中の中学生のカップルが悶々とした中、必死に冷静を保っている。
 自由気ままに生きてきた謙人にとって、初めて味わう試練だった。
 でも、何だか癖になりそうで、それはそれで怖い…

「萌絵ちゃん… 苦しい…」

 謙人は萌絵の胸の中に顔をうずめる。
 萌絵は笑いながら、謙人の背中を優しくさすってくれる。

「もう出ます?」

 謙人は首を横に振った。


< 178 / 227 >

この作品をシェア

pagetop