イケメンエリート、最後の独身
謙人は覚えていない昔の事。
母親の話によれば、謙人は幼稚園に入ってすぐ、初めて恋を覚えた。
萌ちゃんという名前の女の子。まだ三歳の子供なのに、萌ちゃんのストーカーをしていた?らしい。
そんな萌ちゃんは一年で転園してしまった。萌ちゃんの事が大好きだった謙人は、ショックのあまり、三日くらい寝込んで幼稚園を休んでしまったそうだ。
母親の勝手な作り話として信じてはいないけれど、だけど、心の奥の方で消える事なくくすぶっている。
俺の本能は女を選ぶんじゃないかと…
でも、そんな隠された事情は、普段の生活で10年に一回も思い出さない。
今現在の謙人はほとんどの仕事をリモートで済ませている。
週に一度、水曜日にオフィスに顔を出すくらいだ。その日は合同会議があるし、その頃には東京の空気が恋しくなる。
でも、それ以外の六日はこの鎌倉の家で過ごしている。鎌倉の高台にある父親が残してくれた別荘をリノベーションし、海を眺めるには絶好の空間を手に入れた。
コロナで息苦しい今の世の中を、青い海と青い空のグラデーションを楽しみながら、田舎と都会の贅沢な二重生活を満喫している。