イケメンエリート、最後の独身
そんな謙人の変化に全く気付かない萌絵は、満面の笑みの後に、今度は切ない表情をした。
その上目遣いの可愛らしさは、百本のハートの矢が突き刺さった謙人の心臓に、更に大砲を撃ち落とした。もう瀕死状態だ。
「前田さん、あの、このビルの近くにタクシー乗り場ってありますか?
東京は、どこでもタクシーを拾えないって聞いたんです。
ここへ出社した時に確認できればよかったのですが、そんな余裕がなくて」
タクシー??
謙人はすぐに頭を切り替えた。
「コンシェルジュの人に呼んでもらえばいいよ。
正面玄関のロータリーに横付けしてくれるから。
俺達はそんな風にしてタクシーを使うけど…」
そう説明しながら、謙人はちょっとした違和感を覚えていた。
「タクシーが必要な用事があるの?」
その質問に萌絵は困ったように下を向いた。
謙人はどういう理由があるのか聞かずにはいられない。
でも、萌絵の返事をゆっくりと待つことにした。言いたくないのか、言いかけては止める事を繰り返しているから。