イケメンエリート、最後の独身


「前田さん…
 笑わないで聞いてくれますか…?」

 謙人は、優しさとたくましさを込めた微笑みを萌絵に見せる。
 俺を信じてと全身でアピールしながら。

「私、地下鉄の乗り方が分からないんです。
 生まれ育った場所もバスしか走っていないところで、大人になってからはアフリカや発展途上国にいたせいで、東京の交通のシステムについていけないというか…」

 萌絵は顔を真っ赤にして泣きそうな目をしている。

「前田さん、実は、私…」

 謙人は萌絵から目が離せない。萌絵の一語一句が気になってしょうがない。

「…究極の田舎者なんです!」

 萌絵は大きな声でそうカミングアウトすると、大粒の涙をこぼし泣き始めた。
 謙人はその涙の意味が分からない。
 田舎者なのは言わなくても何となく分かっていたし、何が辛いのかさっぱり分からなかった。

「萌絵ちゃん、泣かないで。
 田舎者は全然悪い事じゃないし、逆にすごくいい事だと俺は思うけど」

そんな謙人のフォローも萌絵の心には響いていない。


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