イケメンエリート、最後の独身


 萌絵からしてみれば、マフラーの事なんてどうでもいいに違いない。でも、謙人はそのマフラーの行方が妙に気になって仕方がない。
 萌絵を困らせているのはちゃんと分かっている。

「あのマフラーは…」

 萌絵は言いかけて、止めた。
 謙人に笑顔を向けて、また歩き出そうとする。

「誰かに借りたとか?」

 別にそのマフラーを誰に借りようが、本当にどうでもいい。
 謙人はこの質問を最後にしようと心に決めた。萌絵がはぐらかすのなら、もうそれ以上は詮索しない。
 謙人は足早に過ぎていく人の波をぼんやりと見ていた。細い地下道は少しだけ渋滞になっている。

「あのマフラー…
 ホヨンさんに借りたんです…
 でも、その理由は言えません。ホヨンさんと約束したから」

 萌絵はそう言うと、すっきりした顔で歩き出した。
 謙人もとりあえず一緒に歩き始める。でも、頭の中はパニック状態だ。


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