イケメンエリート、最後の独身
そこからは目が回るほど忙しかった。
まずは東京で住む所を探さなきゃならない。萌絵は東京に行った事のない超田舎者だった。
でも、今の時代、物件探しもリモートで全部できる。現場に行く事なく全ての手続きを委託業者にしてもらい、三日前、初めて東京に降り立った。
そして、今日が初めての出社日。
萌絵は東京の地下鉄がさっぱり分からない。
前日に予行練習でEOCまで電車で行ってみた。だけど、たどり着けなかった。だから、今日はタクシーを使った。なんと料金に8000円もかかってしまった。
もうこの時点で萌絵の心は折れていた。
今、そびえ立つ高層ビルを目の前にして、自分の考えの浅はかさに落ち込んでいる。
…ここは、きっと、究極の田舎者が来たらいけない場所。
萌絵は挙動不審になる自分を振るい立たせるしかなかった。
…萌絵、あなたは田舎者じゃない。堂々としなさい。何事にも笑顔、それで今まで乗り切ってきたじゃない。田舎者って誰? 私じゃない… 私じゃありませんよ!!
高層ビルの正面玄関の前で、萌絵の独り言は続いた。道行く人の切ない視線を集めながら。