イケメンエリート、最後の独身


「実はすごく緊張してたんです。
 私のために歓迎会をしてあげるって言われて、それもこのビルの54階にあるすごく眺めのいいお洒落なバーだって聞いて。
 この人生で54階に上った事もないし、バーと呼ばれるお店にも入った事もなくて。
 何を着て行っていいのかも分からなくて、実は、今日を迎えるのがすごく怖かったんです。こんな事、ホヨンさんには相談できないし」

 萌絵は大きな瞳を潤ませて謙人を見る。

「謙人さんがいてくれて本当によかった…
 私、謙人さんがこの職場にいなかったら、多分、もう辞めてたかもしれません」

 謙人は誰も乗っていないエレベーターの中で、萌絵の肩を自分の方へ引き寄せ、そして優しく肩をたたいた。

「緊張することないよ。 皆、優しい奴らだから。
 あと、萌絵ちゃんの事、ちゃんと認めてるよ。
 だから、自信を持つこと。
 萌絵ちゃんは萌絵ちゃんのままで、そのままでいいんだから」

 萌絵が会社を辞めるなんてあり得ない。
 謙人は萌絵を強く抱きしめたかった、でも、その行為をするにはまだ早すぎる。


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