イケメンエリート、最後の独身


「あ、ありがとうございます…」

 萌絵の囁くような小さな声は震えていた。
 謙人はその声がどういう意味を持っているのか分からない。
 謙人に慰められて喜びの声の震えなのか、それか急に肩を抱かれて怯えた声の震えなのか…
 それでも謙人は萌絵の肩を抱いたままだった。このままキスをしたいけれど、それは我慢しておこう。

 謙人と萌絵は萌絵の仕事終わりの時間に合わせて、ビルのエントランスにあるグランドピアノの前で待ち合わせをした。
 謙人はピアノの後ろ側にあるソファに座って萌絵の事を待つ。

「謙人さん、お待たせしました」

 新しいワンピースに着替えた萌絵は、見違えるほどに美しかった。
 恥ずかしいほど、謙人の視線は萌絵に釘付けになっている。
 萌絵を取り巻くピンク色のオーラはゴールドに近い色を放ち、そこから漂う優しい香りに、謙人の思考は破壊寸前だ。

「萌絵ちゃん、すごく綺麗だよ。すごく似合ってる。
 今、この場所にいる全ての女性よりも、誰よりも一番に萌絵ちゃんが輝いてる」


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