太陽と月の恋
彼はテキパキと動き始め、マットの敷かれた一角に移動する。

「なんでそんなに姿勢姿勢って」

私は河辺さんに後ろから上体を押されながら呟く。

「惜しいんですって」
「惜しい?」
「木谷さん、すごい美人じゃないすか」
「え?」

美人?

私が驚いて聞き返してる間も、河辺さんはゆっくりと私を押し続ける。

「美人なのに、首から下が残念!直してぇーって俺ずっと悶々としてて!」

さらに負荷が掛けられる。

「いたいたいたいたい・・」
「硬いっすね」
「むりむりむりむり・・」
「10秒キープしましょう、あ、呼吸は止めないで下さいね、ゆっくり続けてください」

筋肉が伸ばされる痛みの中、さっきの言葉を反芻する。
それと同時に、この人すごいなとも感心してしまった。

初対面に近いこの間柄で軽く言えるもんなんだな、と。

「はい、反対」と河辺さんは右から左へと移動し、私の体は今度は右へと強く押される。

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