太陽と月の恋
「じゃあもしかして今日は一人っすか」

別にここで見栄を張る意味もなく、私は「はい」とだけ答える。

「えー、かわいそう」
「可哀想って、別にクリスマスって言ってもただの平日だし、どんな過ごし方したって私の勝手じゃないですか」
「俺、腹減りました」

河辺さんは私の反論を遮るように言った。

「俺、今日ここ9時までのシフトなんですけど、その後飯行きません?」

グレーのマットの上、いつもより心なしか人が少ないトレーニングルームにて、私はクリスマスイブ・ディナーに誘われた。

彼の目がジッと私を見据える。

今日はジムに来て良かったかもしれない。

「はい、いいですよ」

私が答えると、その目は一気に輝きを増して口角がじわじわと上がった。

そして笑うのを無理矢理隠すように頬の裏を舌で押したりしながら、何事もない風を装って「じゃあ、なるべくすぐ仕事終わらせるんで」とだけ彼は言った。
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