太陽と月の恋
誰もいない夜道。

「ここでーす」と私はアパート前で立ち止まった。

河辺さんは笑顔を作る。

手にギュッと力が入って、「また、メシとかどっか行こ」と小さな声で言ったので、応えるように頷く。

指切りげんまんするように、さらにギュッギュッと握った後、パッと手は放たれた。

「送ってくれてありがと」

私は最後にそう御礼を言うと、彼は頷く。

「じゃ」
「じゃ」

短い別れの挨拶を交わして、私は階段に足をかけた。

その時、「ねえ」と突然右腕を後ろに引かれ、私はくるりと振り向かされた。

「好き」

あまりにもハッキリと言うものだから、冬の冷たい空間に響く。

その真っ直ぐな眉毛と瞳に見つめられて、私は圧倒されたんだと思う。
頭が働かず、口も開こうとしない。

「好きです」と再び硬い表情で言う。

私まで、喉から耳にかけて、カーッとウォッカを飲んだように熱くなった。

なんて応えるのが正解なんだろう。

ゴクッと唾を飲む音まで私の耳に届きそうなほど、彼のまっすぐな目から緊張感が伝わってきて、可哀想という表現が正しいのかは分からないけど、目の前の彼の緊張を解いてあげたくなった。

この目の前にいるパーマ頭を抱きしめたい。

「ありがとう」

そう答えた途端、不意に私は恥ずかしくなって笑ってしまった。

河辺さんは私の返事に軽く頷いてから、一歩近づく。私の背中と後頭部に手を移動させ、ゆっくりと顔を近づけた。

鼻と鼻が擦れそうなほど近付いたところで一旦止まり、凛々しい目に見つめられたから、私は自然と事の流れを受け止めて軽く目を閉じる。

遠くで電車の音が鳴るクリスマスイブの夜。

私は河辺さんとアパート前の階段下の砂利の上で短いキスをした。
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