太陽と月の恋
剛くんはあの複雑な住宅街を一発で覚えたのか、サクサクと私よりも先を行くような足取りで歩く。途中、「寒い」と言って、アウターの中に着込んでいたパーカーのフードを被った。私はその隙間から見える横顔を下から覗き込んで、鼻筋と目にかかりそうでかからない前髪が好きだと感じた。

アパートに着くと、駐輪場の一番端に華奢な自転車を止め、私を先頭にして部屋へ向かう。

カンカンという二人の足音だけが夜の空気に響く。後ろにいる剛くんは何も言わない。

私の部屋の鍵を開けると、シンと静かな空間が私たちを待っていた。剛くんの存在に、「誰か来た」と声を静めたみたいだ。玄関の電気をつけた。

「おじゃましまーす」と剛くんが小声で言う。

「どうぞどうぞ」

私は今朝片付けたばかりの部屋に通す。
ガタイのいい剛くんが入ると狭い部屋が余計に狭く感じる。

剛くんはアウターを脱いで、大きな体をたたみ込むように、ローテーブルの側に体育座りした。

「今暖房つけるね、ごめんね、寒いよね」

私もコートを脱ぎながらエアコンの電源を入れる。

「俺の部屋の方が寒いから平気」と剛くんは歯を見せて笑った。

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