太陽と月の恋
「剛くんってバツイチなの?」

私がやっと口を開いて発した問いはそれだった。
剛くんが俯きながら頷く。

「なんで」

そこまで口にしたところで、その先に悩む。
私は何を責めたいんだろう。

何がこんなにも今嫌悪感を抱かせるんだろう。

この心のモヤモヤの正体は何。

「ごめん」

剛くんが小さな声で言う。

「俺はバツイチだし、俺が原因で離婚してます。今まで言ってなくてごめんなさい」

剛くんは私の方に体ごと向いて頭をまた下げた。

「なんで言ってくれなかったの」
「うん、ごめん」
「付き合う前に言ってくれたら・・」

そこまで私が言ったところで、剛くんは少し顔を上げた。痛々しい瞳と目が合う。

「言っていれば付き合わなかったのに、って?」

皮肉をこめたような口調に、剛くんの口角が少し上がる。

「そんなこと」
「バツイチの俺とそうでない俺は違う?」
「そんなこと言ってないよ、でも言ってほしかったよ」
「そっか、そうだよね、ごめん、言わなきゃとは思ってたよ、言えなくてごめん」

目の前のテレビモニターで、選手から選手へとタスキが渡される。トップが独走状態。
山の傾斜が激しくなってきた。
こんなところを走り続けるなんて、私には無理。
あのランニングマシンですらキツいんだから。

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