太陽と月の恋
「ごめん、今日は一旦帰る」

私はベンチから立ち上がる。

「ねえ」と剛くんが私の手を引いた。
泣きそうな目。

「これで終わり?俺ら」

私は首を横に振った。

「一旦家帰って一人で考えるだけだよ」
「考えるって何」
「考えるっていうか、剛くんのことを受け止めたいから冷静になりたい」

私のことをジッと見つめる剛くん。
好きだけど、好きだから辛い。

そっと手が離される。

「分かった」

剛くんは無理して笑う。

「落ち着いたら連絡して」

私は頷いた。そして思わず口を開く。

「ねえ、なんで言ってくれなかったの」

責めるのはダメだと思う。
剛くんを悪者にするのは違う。
でももしあのクリスマスの夜に、初めてご飯に行ったあの夜に、打ち明けてくれてたらこんなに傷つくこともなかったかもしれない。

剛くんは情けないように笑って口を開いた。

「葵ちゃんに好かれたくて必死だった」

私はその言葉を何度も頭の中で反芻しながら、その場を去る。

下りのエスカレーター。
年明けの賑わいが目に入らない。
こんなに値下げしてるのに、何もかも魅力的に映らない。

なんでこんなに辛いのかなあ。

剛くんは私にとって太陽のような存在だったのに、一気に姿を変えたようだった。

だからなんでこんなに学習能力がないんだろう。
なんで半月でまた辛い思いをしてるんだろう。
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