太陽と月の恋
トイレから出て洗面所の鏡の前に立つ。
鏡の汚れが気になるようになってきたものの、まだ許容範囲。

毛穴のない肌になりたい。
ファンデ塗らなくても、日焼け止めだけで過ごせるくらいの。

私はいつだったか、何歳になった時だったか、誕生日プレゼントで誰からかもらった淡いブルーの極太幅パイル生地ヘアバンドをつけて顔を洗う。

結局、全然泣けなかったなあ。

冷たい水を顔面に浴びながら、ふとそんなことを考える朝。

拓郎の声を思い出す。

拓郎は全然私のこと、好きじゃなかった。

最初から最後まで。

私の何がいけなかったんだろう。

重い性格なのか、この隙間のない太ももなのか。
貧乳よりだからか。

顔を拭きながら、目を瞑って省みる。

次、誰かと出逢えるんだろうか。

私のことを好きだと言ってくれる人がこの世にいるんだろうか。

その人は私の、一体何を好きになってくれるんだろう。

タオルから顔を上げ、鏡の中の自分を見つめる。

ハッピーバースデー。

25歳の私。

ぽっかり心に穴が空いたような顔した女は、顎ラインで切り揃えた髪をつまみながら、「髪型はかわいいと思うんだけど」と思う。

幸せになれ、私。

化粧水を手に取った。
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