跡取りドクターの長い恋煩い
 「あら! 芦田先生?
 ちょうどいいところにいたわ!」

 突然声をかけてきたのは白衣部のおばさんだった。

 「今研修医部屋に届けようと思っていたところなのよ。
 はい、これご注文のスクラブ」

 「え? いや、あの、私頼んでいませんけど……」
 
 差し出されたスクラブは確かに研修医用だった。

 廣澤総合病院では、研修医が着るスクラブは指定されている。

胸元より上が白で、胸元より下が濃紺のスクラブだ。ごく普通の、どこでも見かけるスクラブなんだけど、研修医以外の医療スタッフがツートンのスクラブを着てはいけないことになっている。

 つまりこれを着ている者は誰が見ても研修医だとわかるのだ。

 「あれ? これ……」

 よく見ると襟元が今着ているタイプと違う。これは丸首だ。

 「丸首ね。研修医用として確かにあるんだけど、ほとんどの研修医の先生がⅤネックを選ばれるのよ。まあ、Ⅴネックの方がかぶるタイプで楽だからね。着心地ももちろん楽だし。それで丸首はここ何年か人気がなくて表に出していなかったんだけど、突然オーダーが入って驚いたわ」

 オーダー? ……してないんですけど。
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