跡取りドクターの長い恋煩い
 「もう気づいているかもしてないけど、俺たちの父親は廣澤総合病院の副院長だ。
にもかかわらず、院内ではほぼ院長のような仕事を任されている。会議に出るのも、公の場に出るのも、いつも副院長だ」

 「確かに……ホテルで行われた新歓も、副院長先生が挨拶に来られていたわ」

 「うん、それはなぜだかわかる?」

 「……院長先生がお忙しいから、かな?」

 「うん、その通り。
伯父は院長職をする時間もないくらい忙しいんだ。スタープレイヤーだからね」

 それは廣澤に勤めるものなら誰もが知っていることだ。

 院長、廣澤修司先生は小児外科の権威だ。県内外から廣澤修司の手術を受けたくてやってくる患者さんが列をなしている。いわゆる『神の手』を持つと言われているドクターなのだ。

 「院長職をこなす時間が伯父にいはない。
『そんな暇があったら、一人でも多くの子供たちを救え』って言いだしたのが弟、つまりうちの父親なわけ。それで父が自ら院長代理を引き受けることになって、今に至る。
 うちの病院はそれでうまく機能している。
院長の肩書を持ったスタープレーヤーと、雑用をすべて引き受けた副院長とで、役割分担ができている」

 「なるほど……」
< 127 / 179 >

この作品をシェア

pagetop