跡取りドクターの長い恋煩い
 「元々、仲の良い兄弟だったから役割分担もスムーズにできたんだと思う。
 それに父には母親がついているからな。ホテルのレストラン並みの食堂も、このドクター専用マンションの建設も、全ては母のアイデアなんだ。
 ここってさ、駅から少し距離があるし、やっぱ田舎じゃん? 人材確保にはそれなりの福利厚生が必要だってことにいち早く気づいたのが母親なんだ。
実際、離職率は大幅に減り、今はいい人材に恵まれていると思う」

 確かに、食堂にもこのマンションにも私はとても満足していて、恵まれた環境だなって思ってたのよね。9年という長い月日を過ごす私にはとても嬉しいポイントだった。

 「兄ちゃんはさ、その全てを見て育ったんだ。両親が廣澤のために身を粉にして働いている姿をさ。
 もちろん元々のお節介な性格もあるけど、いずれ自分が父親の……つまり副院長の立場を継ぐつもりだったから、あんな責任感の塊みたいな人になったんだな。
まあ、実際には従姉はすでに嫁いだから兄ちゃんは院長になるわけだけど」

 「宗司くんは立派だよー。常に病院のことを考えているし、スタッフのこともちゃんと考えていてくれている」

 「そっか……」
< 128 / 179 >

この作品をシェア

pagetop