跡取りドクターの長い恋煩い
「ごめん。笑美里を好きな気持ちは誰にも負けない自信があるけど、ここから先はガッカリさせるかも……」
 
 俺は黙っていることが出来なかった。
 ずっと笑美里のストーカーをしていて、この歳でDTってやっぱり不器用すぎるだろう。
もっと要領よく生きてきたら、男として経験も積めたはずだし余裕のある男でいられたはずだ。笑美里を悦ばせることも……。

 ああ。やっぱり経験しとくんだった。
今更後悔の波が俺を襲う。
 俺は仕切り直しをしようと笑美里の上から下りた。
 
 「待って!」

 「……笑美里?」

 笑美里が俺のスエットの裾を掴み引き止める。

 「やめちゃうの?  どうして?」

 「俺は……」

 「ずっと私の事、想っていてくれたって言ったじゃない」

 「ああ、言ったよ。もちろん俺には笑美里だけだ。でも、だから……」

 経験がないんだ。完璧なんかじゃないんだ。
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