跡取りドクターの長い恋煩い
 そしてこの日はどれだけゲームをしていても親に怒られない。
 そういうわけで、教授の誕生日パーティは意外と楽しかった思い出として残っている。

 この年、小学校に入ったばかりの笑美里は、まだ自分のゲーム機を持っていなかった。

 彼女より3つ年上の兄貴は当然持っていたので、おそらくいつも家では1つのゲーム機を二人で使用していたのだろう。

 ちなみに俺の弟と笑美里は同じ歳だが、ちゃんと自分のゲーム機を持っていた。

 生意気な弟は、兄との二歳の歳の差はものともせず、いつも果敢に俺に挑戦してきた。

 ゲーム機が1つだと兄弟喧嘩は目に見えているので、親も早々に次男にゲーム機を買い与えていたのだ。

 芦田家にはゲーム機が1つしかないのに、笑美里の兄は俺の弟とバトルの真っ最中だ。あれはしばらく妹に譲らないだろう。

 俺もゲームはしたいが、少しだけ相手をしてやるか……。

 そう思って笑美里の方へ行こうとしたら、笑美里が会場から出ていくのを目撃してしまった。

 母親たちは喋りに夢中で全く気づいていない。

 これはまマズい。トイレに行こうとしているのかもしれないが、まだ外に1人で行くのは早い。

 俺はすぐに後を追いかけた。

 すると笑美里はトイレを通り過ぎ、中庭に続く階段を降りて行ったのだ。
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