跡取りドクターの長い恋煩い
 そこから車を走らせること1時間。
1か月ぶりの実家に到着する。

 芦田クリニックの駐車場に車を停めに行くと、XC90も停まっていた。N県ナンバーの見知らぬ車もある。
 
 「……親父の車だ……」

 「えぇっ?」
 
 「笑美里! おかえりなさい。遅かったわね」

 兄嫁が出てきてくれた。

 「瞳ちゃん! 帰っていたの?」

 「この連休はお式の打ち合わせがあるの。ホテルは大阪だから連休中はここにいるわよ。
 それより本当に二人うまくいったみたいね。なんか半信半疑だったけど」

 「失礼だな。笑美里は俺の日本海溝よりも深い愛に応えてくれて、俺達は昨日……」

 「わー! とにかく中に入ろう!」

 ドヤ顔で何を言いだすんだ、この人は……。
 
 「ま、いいわ。皆さんお待ちだから行くわよ」

 
 
 リビングでは両親と廣澤ご夫妻が歓談中だった。

 「お、笑美里おかえり。宗司もよく来たな!」

 「お兄ちゃん、ただいま!」

 「お邪魔します。
あ、これ皆さんで召し上がってください」

 宗司くんが母にフルーツ大福を渡している。

 「まあ、ありがとう! ここ、テレビでもよく取り上げられているお店よね? 嬉しいわ!
 あ、笑美里、ご挨拶して」

 「副院長、おば様、いらっしゃいませ。
遅くなってすみません」

 「笑美里ちゃん! やっと会えたわ。
宗司も彬良(あきら)もいつも笑美里ちゃんに会えてずるいのよ」

 「灯里(あかり)俺たちは仕事なんだが……」

 そうそう。副院長とは病院で会っているだけなんだけどね。
 まあ、私が病棟にいると必ず覗きに来てくださるから、本当によく会ってるんだけど。
おば様には言わないでおこう。
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