跡取りドクターの長い恋煩い
 階段⁉ 外へ出るのはダメだ!

 ホテルの中だとしても何があるかわからないし、おそらく迷子になるだろう。

「笑美里!」

 俺は大声で彼女の名前を呼んだ。

 笑美里はこちらを振り返ったが、追いかけてきたのが俺だとわかると、また階段を降りていった。

 結局俺も中庭の噴水がある場所まで降り、やっと追いついた。

「笑美里!  勝手に離れたらダメだろう?」

「そーしくん、おみどうがあるよ」

「おみどう?」

「あそこ。神さまがいるのよ」

 そこはチャペルだった。

 その時の俺はまだ小学三年生で、キリスト教に関する知識は全くなかった。

 しかし笑美里が『神さま』と言ったので、そこが教会なのだろうということは何となくわかった。
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