跡取りドクターの長い恋煩い
《おまけ》新居を笑美里にお披露目
 渡りに船とはこのことを言うのだろう。
実は部屋のことをどう切り出そうか悩んでいた。

 俺達にはすでに新居が用意されている。それはこのマンションの最上階の部屋のこと。
 
 マンションの建設の話が出たのは俺が大学3年の時だった。つまり笑美里が大学に入った年だ。
 俺は笑美里といずれ結婚するつもりで最上階の10階に俺たちの新居を作ることにした。

マンションの建設予定地は廣澤総合病院の真横だ。結婚してからも医師を続ける笑美里にとって、ベストな位置だと判断したからだ。

両親にその計画を話したところ、快く承諾してくれたのは言うまでもない。
 
 笑美里と両想いになって、さらに婚約までした今、最上階の部屋の存在をいつ切り出そうかと考えていた矢先の話だ。このチャンスは逃せない。
 
 『俺たちの部屋』の意味が分からず説明を求める笑美里を、俺は10階まで連れていくことにした。

 「ここだ」

 「そ、宗司くん⁉ ……ここ?」

 10階は他の階と違ってワンフロアに一戸だ。下の階とは造りが全く違う。
 広い玄関ポーチの門に暗証番号を打ち込む。もちろん暗証番号は笑美里の誕生日だ。

 「え、それ私の誕……」

 「これは仮の番号。俺たちの部屋だからこの番号にしている。さすがに分かり易すぎるから実際に住みだしたら番号は変えるけどな」

 「う、うん……」
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