跡取りドクターの長い恋煩い
 脱衣室の棚からお気に入りのgelato piqueのルームウェアを取り出し身にまとう。背中の真ん中くらいまでのストレートの髪を乾かしながら、考えはやはり昨日のことに飛ぶ。
 
 はぁ……外に出たらあの人いなくなってないかしら? もう結構時間経ったわよね? 
気まずいし、自分の部屋に逃げ帰ってくれていいんだけどな……。

 脱衣室に引きこもりたい気分だったが、髪の毛を乾かし終え、これ以上は閉じこもれないので、えいやっ! とドアを開けてみた。

そこで見た光景は……。

「あ、あのー?  何をされているんですか?」

「ちょ、朝食を……」

 IHのコンロが2つある広めキッチン付き1LDK……の私の部屋のキッチンに宗司先生が立っている。

「朝食を作ってる。卵は借りた」

「……うちに卵以外の食材は」

「さっき俺の部屋から取ってきた」

 ……なるほど。この人、隣の部屋だった。

 ここは廣澤総合病院のドクター専用マンションだ。研修医はもちろんのこと、新婚さんや家族で住むことができる部屋も完備されていて、ドクターの家族もたくさん住まれている。つまりは社宅。
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