跡取りドクターの長い恋煩い
 ここの食堂は素晴らしい。ホテル並のビュッフェ形式で、何を取っても自由なのだ。これでワンコイン。しかも、季節によって少しずつ料理が変わるから、飽きがこないらしい。
 最高じゃない?

 研修医の私のランチ代は、もちろん指導医の矢本先生が出してくださる。これは医療業界では当たり前の事なので、有難くご馳走になる。

「あっちに研修医が集まってるね。
 行ってきていいよ。16時から病棟を回るから、7階東のナースステーションに来て」

「あ、はい!  お疲れ様です!」

 研修医1年目が集まる一角に行くと、7人中3人が揃っていた。

「笑美里!  お疲れ様〜」

「お疲れ様〜! 千聖、早かったんだね」

「10分前だよ、食堂に着いたの」

「大体みんな同じくらいだよ。
 俺が千聖のすぐ後で、八木がその後だから」

「そっか。外来が終わったらこれくらいの時間が一般的なんだね」

 私を出迎えてくれた女子が谷川千聖(たにがわちさと)。H県の医大から来ていて、同じ歳だ。優しいお姉さん気質で頼りさせてもらっている。総合研修初日から意気投合し、たった1週間で親友のような仲になった。
 302号室の住人だ。
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