跡取りドクターの長い恋煩い
「千聖と俺は外科の古村(こむら)医局長に捕まって、あの後カラオケには行かずに、古村先生のボトルが置いてある沖縄料理屋に行ったんだ」

「この二人、信じられない酒豪だから」

 八木君が呆れたように言う。

「八木君も行ったの?」

「いや、俺は飲めないから存在感消してフェイドアウトした。泡盛なんてとんでもない」

「なるほど」

 あれ?  じゃあ私はいつみんなと離れたの?
 私の顔にはその疑問が出ていたのだろう。

「鏑木と鈴本と山下はカラオケ班に入っていたな。でも芦田は……」

「廣澤先生よ。院長でも副院長でもなくてご長男さんの方。あの人が酔っ払った笑美里の面倒を見てくれてたわ」

「あーうん……」

「千聖が芦田の様子に気づいて『連れて帰りましょうか?』って聞いたんだ。でも、俺たちは古村先生の誘いがあるだろうから行けって。『彼女は隣の部屋だから俺が送り届けるよ』って言ってた。
心配してたんだよ。その、送り狼にならないかって。
 でもあの人ここの跡取りなんだろう? 
立場があるんだから無茶なことはしないだろうってことになって」

「……」

「で、大丈夫だったの?」

 ……大丈夫じゃなかったな。ここでは言えないけどね。
 でも送り狼って訳では……。
私が誘ったみたいだし。
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