跡取りドクターの長い恋煩い
「あ……廣澤が来た」

 八木君がほとんどわからないくらいの声で囁いた。
 振り返ると、そこに宗司くんがいた。

「あ、お、お疲れ様です!」

 残りの3人も同時に挨拶をする。

「お疲れ様。笑美里、ちゃんと食べてるか?」

「え、ちょ、ちょっと……」

 何を言い出すの⁉
 こんな大勢の人がいるところで、この人ただでさえ有名人なのに!

「そ、宗司く……いや、宗司先生、あのっ」

「矢本先生に付いたんだってな。俺もだ」

「え?」

「基本的に俺は副院長外来に付くのだが、病棟指導医が矢本先生なんだ。笑美里は矢本先生に付くの1ヶ月程だがよろしくな」

「あ、はい!  よろしくお願いします!」

 じゃ、失礼、と言って宗司くんはみんなに綺麗な笑顔を見せ、何故か最後に八木くんをじっと見つめた後、矢本先生の方にトレイを持って歩いていった。

 そっか、宗司くんは副院長に付くんだ。跡取りなんだもの、 当然か……。
 でも病棟が矢本先生ってすごい偶然。

「ちょっと、笑美里?」

「ハッ……あ、いやその……」

「随分と親しくなったのね?」

「あ、うん……えっと」

 これは幼馴染って言うしかないかー。

 仕方ないので私達の関係をみんなに話すことに。
 もちろん、一夜の過ちの件は話さないけど。
お付き合い、なんてことも話さない。
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