跡取りドクターの長い恋煩い
「……そうだったんだ。
 幼馴染かー。なら送って行ったのも当然だね」

「……まあそうなんだろうけど、あれは……」

 ボソボソと八木君と福岡君が言う。

「……うん、それだけじゃないよな」

「間違いなく」

「牽制、だよなー」

「「牽制?」」

「ああ、初期研修医に自分たちの関係が広まるようにってとこか」

「それだけじゃない。あいつ、副院長の名前も出してた」

「ああそうだった。芦田の立ち位置、知らせるためにやって来たのか。すげーな、あの独占欲」

 独占欲?

「俺、あの笑顔、背筋震えたわ……」

「ま、俺もな……」

「ふむふむ。なるほど……笑美里って……」

 千聖が少し考えこむように黙ってしまった。
代わりに八木君が言う。

「芦田って地域枠だよな?」

「うん、そうだけど……」

「N県を選んだのはどうして?」

「それは隣の県だったからよ。家族がなるべく実家から近いところの方がいいって。すっごく過保護な家でね」

そうそう。特に兄がN県を推したから、言われた通りに志願書を書いたんだけど――。
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