跡取りドクターの長い恋煩い
 昨日の一次会では乾杯の挨拶が終わると、副院長は奥様が待っているからと言って早々に帰っていかれた。

 上司の引き際って大事だよね。職員の盛り上がりの邪魔にならないようにスマートな退席をされるところはさすがだと思った。

 それが新歓の序盤、私の記憶がまだ確かな頃の話。

 その後、外科の医局長にお酒を勧められた覚えはある。その後からか……記憶が怪しいのは。この人と話したっけ……?



「笑美里、出来た」

「へ?」

 え、笑美里?
 昨日は芦田先生って呼んでたのに。

「あ!  もしかして二日酔いで食べられないか?」

「いえ、大丈夫です。シャワーを浴びたらスッキリしました」

「そうか……良かった」

 そう言って彼は作り付けのデスク兼ダイニングテーブルに朝食プレートなるものを置いた。

  すごい!
  非の打ち所のないプレーンオムレツにソーセージを添えて、ベビーリーフのサラダにはドレッシングまでかかっている。
 うちにドレッシングなんてない。これも持ってきたに違いない。
トーストのこんがり焼けたいい香りがしてきた。
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