跡取りドクターの長い恋煩い
「芦田先生?」

「……へ?」

「どうした?  俺の顔に何かついてる?」

「あ、いえ!」

 まずいっ!
私ったら妄想して唇に見とれてた。
 仕事中よ!
しっかりしなさい!

「何かわからないことがあったらすぐに聞けよ?」

「う、うん、大丈夫」
 
「そうだよ。朝言った通り、1度持ち帰って自分で調べるのは時間の無駄だ。
 心配しなくていい。指導医は間違ったことを言わないから。口に出して言うことは全て信じてそのまま覚えていい」

「は、はい!」

「今までだって、大学で膨大な量の医学を学んできたと思う。でもこれから先もそれはまだまだ続くんだ。だからなるべく時短。実地で学ぶ時はその場で覚え切る。これは鉄則な」

「はい!」

 指導医は間違った事を言わない。
 それは経験に基づいた自信。

 すごいなー。私があんな風になれるまで、一体どれだけの時間がかかるんだろう……。

「じゃあ、今日はもう上がっていいよ。
あっ!  その前に明日の朝から始まる採血について、教えてもらって。宗司先生頼んだよ」

「了解です」

「じゃ、お疲れ」

「ありがとうございました!」


 
< 64 / 179 >

この作品をシェア

pagetop