跡取りドクターの長い恋煩い
「わ!  美味しい〜」

 綺麗に形を整えられたオムレツの中はトロトロで、ホテルのシェフが作ったと言っても充分通るだろう出来栄えだ。
 しかもパンには既にりんごジャムが薄く均一に塗られていた。

「このジャム、すっごく好み……」
 
「そうか! これはりんごバターというものだ」

 ホッとしたようににっこり笑う隣の彼を、思わず覗き込んで見てしまった。

 この人、びっくりするくらいまつ毛が長い。男性とは思えないくらい綺麗な顔をしている。

「な、な、なんだ?」

「あ、ううんっ!
 凄いね。ホテルのシェフ顔負けのオムレツだよ。私、今まで食べたオムレツの中で、一番美味しいと思ったかも……」

 本当にすごい。私なんて料理は全くだ。
 冷蔵庫の卵は、全部ゆで卵で食べるつもりだったし。

「こんなもので良かったら毎日でも作るぞ?」

 ま、毎日⁉

「それは……」

 どういう意味?  と聞きたかったけど聞けなかった。
お互い裸で目覚めるといった夜を過ごした後なだけに。

「……あの、冷めないうちにいただくね?」

 ここは全てをサラッと流して早く食べ終わり、お帰りいただこう。

1人になって、ちょっといろいろと考えさせて欲しい。男性と一夜を共にしたのなんて、初めてのことなんだから。

 私は黙々と朝食プレートを食べ続けた。

 
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