跡取りドクターの長い恋煩い
 「まあ、宗司先生に言われたら母も動きますよ。未来の院長なわけですし。
 それにあの人、にこにこ爽やかに自分の意見を通しちゃうところは昔から変わってません」

 「瑞穂ちゃんさすがによく知っているわね、幼馴染だもんね」

 幼馴染? ……って、宗司くんと?

 私は思いがけない話を聞いて、思わず彼女を振り返ってしまった。

 ワンレンのサラサラボブがきれいなおでこを強調していて、彫りの深い顔立ちがとても美しい。背が高くてスレンダーな美人さんだ。
 美脚で有名な三人組ユニットのボブカットの人に似ている。

 突然私が振り返ったからか目が合ってしまった。

 ニコッと微笑まれる。
 ……めっちゃ可愛い……。

 「あら、宗司先生! いいところに。
 瑞穂ちゃんが来月の献立表を持ってきてくれたんです。ご覧になります?」

 宗司先生が7東ナースステーションに入ってきた。

 「ああ、サンキュ。
 …………うん、これなら内視鏡検査前にはかぶらないな。
 悪かったな、変更お願いして。室長ぼやいてた?」
 
 「まあ……あまり変更が重なると生産者さんに悪いからね。廣澤では地元の食材にこだわっているから。
 でも今回のは、理解できるって。それにせっかくなら多くの方に食べてもらいたいじゃない」

 「そうね。私もそう思うわ。
 宗司先生がすぐに動いてくださって良かったわ。ありがとうございます」

 「いえ、当然のことをしただけなので」

 「じゃあ、あとは院内掲載印をお願いね、瑞穂ちゃんお疲れ様」

 そう言い残して高畑主任は仕事に戻っていった。
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