跡取りドクターの長い恋煩い
 「瑞穂もありがとうな。一緒に説得してくれて」

 「ふふふ……高くつくから」

 「またか……まあ仕方ない。今度おごるよ。店決めといて」

 「わーい!
 あ、宗司くんの手料理がいいなー!
 新しいマンション、まだ見に行ってなかったから。今度お邪魔していい?」

 「そんなのでいいのか?」

 「そんなのでって、宗司くんの料理の腕にはかなわないもん。
 勉強させてもらいたいの」

 「いつでもいいぞー。じゃあそれも決めておいて」

 「うん!」

 私は今電子カルテに向かって、彼らには背を向けている。この数分、カルテのチェックは全く進んでいない。意識は完全に二人の会話に向いていた。
 
 何してるのよ、私。

 瑞穂さん……。
 あの人はおそらく川瀬室長の娘で、宗司くんの幼馴染?
 それに、手料理を食べさせたことがある仲で、大学時代のマンションにもいったことがある人。

 ……彼女はいないって言ってたのに。

 私は混乱していた。
 やっぱり、私が酔っ払って誘ってしまったから、その責任を取ろうと我慢してくれていたんじゃ……。こんなに親密な幼馴染がいるのに。
 
 もやっとした、言いようのない不安感が私を襲った。

 
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