跡取りドクターの長い恋煩い
 ……いや、そもそもそれよ。
 私たち、本当にしたの? 
どっちも最後までは覚えていないんだし、やっぱり本当は何もなかったんじゃないの?

 それに、妊娠していないとわかったんだから――。

「俺は別れないぞ!」

「え」

「笑美里、今『俺と付き合う必要があるのか?』って思っただろう?」

 思った。

「あるだろう? 
毎日晩飯がついて来るんだぞ?」

「いや、それはそうなんだけど」

 確かに晩御飯はありがたい。今食べたおろしハンバーグもふっくら仕上がっていて、肉汁がたっぷり溢れ出てきてレストラン並みの仕上がりだった。

 先週の日曜日に作ってくれたフレンチトーストも最高の出来だった。

 お付き合いの特典としてこれが付いてくるなら捨てがたいんだけどね。

 でも、根本的な問題でしょう?

 付き合うって、普通はお互いがお互いを想い合う……つまり『好き』が前提のはず。
 私たちの場合、そこをすっ飛ばしているわけじゃない。

 それに、あの瑞穂さんのことだって――。
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