跡取りドクターの長い恋煩い
 しかし俺は笑美里に嘘をつきたくない。
 格好つけたって仕方ないじゃないか。
経験がないのは一途に笑美里を思ってきたからなんだ。
 ……よし。

「噴水の前で笑美里が俺にキスしてきた時から。その時からずっと笑美里が好きだった」

「う、嘘!  だってそんな昔のこと……。
 いくらキスしたからって、そんなの子供の頃のことなのに……」

 でもあれは、俺にとって衝撃的な出来事だった。幼稚園を出たての小悪魔にファーストキスを奪われて、心まで奪われてしまったんだよ。

「責任取れよ」

「へ?」

「笑美里があの時、俺の心を奪ったんだ。
 あれから、誰も好きになれなかった。笑美里がずっと俺の心の中に住み着いていたからだ。笑美里が奪ったんだぞ?  俺のファーストキス」

「え、ちょ、ちょっと待って!」

「なに」

「本当に?  私が初恋って言うのは、うん……わかった。あんな事があったんだもん、それは理解できる。
 でも、それからずっとって……」

「俺はずっと男子校で、土日は部活」

「だ、大学は共学じゃない!」

「言っただろう?  男子料理部に入ってたって。俺部長だったんだ。
そこの部長って、代々独り者しかなれない。彼女が出来たら部長になる資格は失うんだ。
結構ストイックなクラブだったんだよ」

 どうだ。これで分かっただろう?
 
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