クールな許嫁の甘い独り占め。


あの時、咲玖が誘拐されていたら…そう思うと今でも怖い。
今回も用心するに越したことはないと思う。


「でも、咲玖ちゃんに悪いよ…」
「咲玖には本当のこと話す。それ聞いたら納得してくれるよ」
「本当にいいの…?」
「俺たち友達なんじゃないの?」
「っ、」


また天野の瞳に涙が滲む。
気丈に振る舞っても怖くて仕方ないことくらいわかる。


「あり、がとう…っ」


* * *


「――というわけで、しばらく天野のこと送りたくて」
「紫帆ちゃん、そんなことが…私も紫帆ちゃんのこと心配だし、ついててあげて」
「うん、ありがとう。咲玖は大丈夫?」
「大丈夫!」
「あんまり一人で帰らないで」
「子どもじゃないんだから大丈夫だってば!」


そういう意味じゃないけど…まあ春日井がいれば大丈夫か。


「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」


これで一旦大丈夫かな。咲玖も納得してくれて良かった。

それにしても、久々に会ったくらいで運命とか…ぶっ飛んだ考えの奴もいるんだな。
天野は誰に対しても優しくて平等だから勘違いしたのかもしれないけど。

俺は中学に入って、初めて天野に話しかけられた時のことを思い出していた。
小学校はクラス違ったのに何故か俺のことを知っており、同じ寮生だとわかると人懐こい笑顔を向けてきた。

「九竜蒼永って名前までカッコイイよね。そうだ、今日からリュウって呼ぶね」

なんていきなりあだ名を付けられた。


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