クールな許嫁の甘い独り占め。
なんていつも他愛ない話をしながら歩いているけど、唐突に天野が尋ねた。
「ねぇ、リュウと咲玖ちゃんって親同士が決めた許嫁なんでしょ?」
「まあ、正確にはじいちゃんだけど」
「勝手に婚約させられて、嫌だと思ったことなかったの?」
これは昔春日井にも聞かれたことある質問だ。
「ないよ」
「どうして?そりゃあ咲玖ちゃんは女子から見てもかわいいしめっちゃいい子だし、あたしもこんな子と結婚したいって思うけど」
「…小2の時、ばあちゃんが亡くなったんだけど」
じいちゃんが厳しかった分、ばあちゃんは優しく甘やかしてくれた。
でも俺が間違ったことした時はきちんと叱ってくれる、そんな人だった。
「ばあちゃんっ子だったからすごくショックで…なのに上手く泣けなかった。泣けないけどすごく塞ぎ込んで、一人で蔵に篭ってたんだよ」
両親とじいちゃんが探し回る声が聞こえたけど、出て行く気にはなれなかった。ひたすら一人でポツンと座っていたら、突然蔵の扉が開いた。
見つけたのは咲玖だった。
咲玖は座り込む俺を見るなり、大声で泣き始めた。
『さくがいるから…ずっとあおとといっしょにいるから…っ、ひとりにならないで…!!』
「そうやって泣く咲玖のこと見てたら、初めて涙が出た。二人でわけわかんないくらい泣いて、そこで親が見つけて。
その時、咲玖がいてくれるなら他に何もいらないって…そう思った」