クールな許嫁の甘い独り占め。
それから、どんなに辛くても必死に稽古に打ち込むようになった。
何があっても咲玖を守れて、天国のばあちゃんにも胸を張れるように。
「好きになった相手がたまたま幼馴染で許嫁だった、それだけだよ」
「そっか…なんかすごいなぁ」
「すごい?」
「だってそんな風に想える人、一生に一度出会えるかどうかなのに、もう出会えてるってことでしょ」
「まあ、そうかも」
「すごいよ…ほんと」
そう呟いた天野の表情が翳りを見せたような気がしたが、すぐに明るい笑顔に戻った。
「リュウ、今までありがとう。送ってくれるのは今日が最後で大丈夫」
「え、でも」
「1週間続けていなかったんだから、もう大丈夫だよ」
「そう?天野がそう言うなら」
「大丈夫!本当にありがとう。咲玖ちゃんにもお礼言っておいてね」
「わかった」
ひらひらと手を振る天野を見送り、踵を返す。
一人での帰り道、さっきの自分の言葉を反芻した。
そうだ、最初は咲玖がいてくれるだけで良かった。でも、咲玖に恋する度にどんどん欲が芽生えて…
咲玖に俺との結婚を自ら望んで欲しいと思うようになった。
祖父に決められた許嫁じゃなく、俺と咲玖との約束が欲しい。
咲玖を誰にも渡したくない。
結局子どもの頃から何も変わってなくて、子どもじみた独占欲の塊なんだよな。