クールな許嫁の甘い独り占め。
本来、跡取りとなるのは父さんだ。
でも、父さんは跡取りの座を捨てた。美容師になりたいという夢を諦められなかったから。
じいちゃんは激怒した。
九竜家の男が武道の道に進まず、髪いじりなんて軟弱者だ…みたいに言ったらしい。じいちゃんは武道一筋の人だし、大喧嘩して父さんは勘当され、その後美容師となった。
その後母さんと出会い結婚することになったけど、そこでも一悶着あったらしく、結局息子が生まれたらその子が後継ぎとなるという約束をした。
つまり、それが俺というわけ。
だから俺は生まれた時からあらゆる武道を叩き込まれてきたし、許嫁はいたし、とにかく俺の人生はすべてじいちゃんによってレールが敷かれていた。
それが父さんからすると、すべてを背負わせてしまったと重荷に感じているらしい。
母さんはそんなじいちゃんと父さんを取り持つべく、仕事を辞めて道場を手伝うようになった。
やがて女性門下生の声を聞き、ネイルサロンを開く。強くなりたいが女性らしくもありたい、そんな門下生たちを積極的に支援している。
だけど、父さんは自分が道場に関わる資格はないと思っているのか、一人実家を出て都内の一等地に自分の店を構えている。
地方じゃないけど、単身赴任みたいな感じなのだろうか。
特に俺に合わせる顔がないと思っているのか、父さんは九州にいた頃も一度も会いに来なかった。