クールな許嫁の甘い独り占め。
俺は全く気にしていないのに。
確かに用意されたレールの上を進むことにはなったけど、進むか否かを選ぶのは自分だと思ってるし、最終的には俺が決めた道だと思ってる。
それを誰かのせいにしようだとか思ったことは一度もない。
多分俺には、心の底からやりたいと思えることはなくて…武道も嫌いじゃなかったから続けた。
その中でも剣道と空手は比較的楽しくて得意だったから極めた、それだけだ。
唯一本気で欲しいと思ったのは咲玖だけ。
咲玖に選ばれる男になりたくて、頑張っていただけに過ぎない。
まあとにかく、父さんを責めたい気持ちなんて欠片もないし、むしろじいちゃんを振り切ってまでやりたいことを突き通した父さんを尊敬してる。
だけど父さんに背中を向けられる度、どうしていいかわからなくなる。
俺自身が口下手だから、なんて言っていいのかわからなくなってしまって…結局今までちゃんと話せたことはない。
母さんもずっと心配してるし、このままじゃ良くないんだとも思ってるけど…。
「ところで蒼永、咲玖ちゃんは?」
「白組の方にいる」
「あら咲玖ちゃんは白組なのね…残念だわぁ」
「俺そろそろ戻らなきゃ」
「引き留めてごめんね、頑張って」
そう言って俺は席に戻り、母さんも踵を返した。
恐らく父さんの方に向かったのだろう。