クールな許嫁の甘い独り占め。


ピストルの空砲が鳴り響き、最後のレースがスタートする。
流石に一緒に走るのは運動部の精鋭ばかりで、全員めちゃくちゃ速い。
陸上部やサッカー部とか、日頃から走り込んでる奴らばかりだ。
マジでなんでこの中に放り込まれたのかわかんない。

でも、咲玖が見てる前で負けたくないし、春日井にも手を抜くなと叱咤されてるから全力でバトンを繋ぐだけだ。


「蒼永ーーー!!いっけーーー!!」


咲玖の声が聞こえた。
これだけの雑音の中でも、咲玖の声がスッと耳に入る。


「蒼永…!!頑張れ…!!」


――あれ、今の声、父さん…?

振り返るわけにもいかず、そのまま走り抜けて第二走者にバトンを繋いだ。
結局何位でバトンを渡せたのかよくわからない。

肩で大きく息をしながら、振り返る。
父さんと目が合った。久しぶりに父さんと目が合い、父さんの笑顔を見た気がした。


* * *


「すごかったね蒼永〜!めっちゃ速かったね!」
「ありがと…」


終わってみたらどうやら勝ったらしく、大いに盛り上がっていた。


「ねっ!青人(はると)さんも見ました!?」
「あ、ああ」
「思わず声出ちゃいましたよね!」
「てゆーか、なんで咲玖と父さんが一緒にいるの…?」


俺はずっと気になっていた疑問をぶつけた。


「さっきそこで会ったから!」
「母さんは?」
「会ってないけど…多分うちの親と一緒なんじゃない?」
「……」


父さんは気まずそうに俺から目を逸らす。もういつもと同じ感じになっていた。


「お手洗いの帰りに青人さんに会ったから声かけたの。これからリレー始まるのに隅っこにいたら見えないと思って、前の方にお連れしたんだ」
「私は遠慮したんだが…咲玖ちゃんが是非にと…」
「だって花形の紅白リレーですよ!?蒼永トップバッターだし、見逃しちゃうかもしれないじゃないですか!」


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