無趣味なニセモノ令嬢は、乙女な騎士の溺愛に気づかない
その瞬間、私は弾かれたように2人に背を向け走り出した。曇っていた空は暗い雨雲に変わり、私の頬を雨粒が濡らしていく。
(いつから……? だってこの前の夜会も、次の日もいつもどおりだったのに)
急いで馬車に乗り家に帰る頃には、土砂降りになっていた。心配したメイド達がすぐにお風呂の準備をしてくれ、お湯につかる。その日、私はバスオイルを使わなかった。
「ねえ、私あての手紙は届いていない?」
2人の逢瀬を見てしまったあの日から、もう5日もたつ。グレッグは毎日手紙を送ってきていたのに、一通も届かなくなっていた。数日後には、彼が必ず一緒に行こうと誘った舞踏会があるのに、ドレスも送られてこない。
お茶を運んできたメイドに聞いてみるも、そのメイドはにっこりと笑って「本日は無いようですね」と言って、足早に去っていった。あら? さっきのメイド、新しい人かしら? それとも領地に行ってるお兄様付きのメイド? 見たことない顔だわ。私がじっと顔を見たら、逃げるように去っていったけど。私ってメイドにも嫌われちゃったのかしら……。
その後舞踏会について私から手紙を送るも、返事はやはり来なかった。そのかわり前日になってようやく、私のもとに舞踏会用のドレスが届いたのだった。