意地悪王子様のホワイトデー大作戦
実花子は、その小さな箱の中を眺めると、すぐに肩を震わせて泣き出した。

「あー……泣くと思ったんだよね。おいで、泣いたら目腫れて、ブサイクになるよ」

「っ……ばか……千歳が泣かせるからでしょっ」

「返事は?どうせ、はい、でしょ?」

「……ひっく……千歳のばか」

思わず、僕はクククッと笑った。

実花子らしい。プロポーズされて、嬉しくて、でも恥ずかしいからって、王子様に『ばか』なんていうお姫様は、実花子くらいだろう。

実花子が、濡れた瞳で僕を見つめると、言葉の代わりに、僕の背中をぎゅっと抱きしめた。

「……一生、実花子を大切にするね」

僕は、実花子の白くて細い薬指に、プラチナ素材の台座にダイヤモンドとガーネットがあしらわれた指輪を嵌めた。

「……ひっく……千歳……」

「愛してるよ」

僕は、二度目のその言葉を口に出す。一度目は、バレンタインデーの夜だ。すぐに実花子が耳まで真っ赤にする。

「あ、思い出した?」

実花子は、綺麗な瞳を見開くと、こくんと小さく頷いた。

「僕、もっかい聞きたいんだけど?」

あの夜、僕は初めて『愛してるよ』、という、その六文字を口にした。

今まで沢山の女の子と付き合ったけど、その言葉を言いたいと思う女の子は、誰一人居なかった。初恋の美弥ですら、僕にとっては、大好きどまりだったから。

「い……いまじゃなきゃダメ?」

「今すぐ聞きたい」

僕は、実花子の頬に触れて、実花子だけを瞳に映したまま、じっと待つ。
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