意地悪王子様のホワイトデー大作戦
車に実花子を乗せて辿り着いたのは、郊外にある、イルカショーが人気の水族館だ。今日は、平日ということもあり、割と空いている。

僕が、シートベルトを外せば、すぐに実花子もベルトを外し、車外に降りた。

「わぁ、楽しみ」

駐車場から、青と赤を基調とした、色とりどりの魚が描かれている水族館の外観を見上げながら、実花子が、嬉しそうに僕を振り返った。

「ずっと来たかったんだよね」

心地よい春風が、実花子のベージュの髪を巻き上げて、甘い香りが鼻を掠めていく。

「実花子、はい」

差し出した、僕の左手を、実花子がいつものように、ぎこちなく右手を重ねる。思わず、僕はクスッと笑った。

「な、何よっ」

「いや、実花子全然慣れないなって」

「恥ずかしいものは恥ずかしいのっ」

「僕と手を繋ぐより、恥ずかしいコト、ベッドでしてんのにね」

アーモンド型の瞳をこれでもかと見開くと、実花子が、ぷいっとそっぽを向いた。

「そっぽ向いても、僕、絶対手離さないから、どこにもいけないよ」

「もう、やめてっ……何にも言わないで!千歳のばかっ」

僕は、口角を上げると、実花子の指先に自身の指先を絡めて、エントランスを抜ける。

事前に購入しておいたチケットのQRコードを入り口でかざせば、すぐに僕達の目の前は、まるで海の中を歩いているかのように、蒼一色の世界が広がった。
< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop