意地悪王子様のホワイトデー大作戦
『みなさーん、こんにちわーっ!』

ウェットスーツ姿のイルカの調教師のお姉さん達が、ピンマイクで、元気よく挨拶をする。

「千歳、ここは、水かからないのよね?」

実花子が小声で僕の耳元で囁いて、くすぐったい。

「うん、ギリギリ水かからないよ」

「すごくドキドキしてきちゃった……」

(それは、僕の台詞だけど)

実花子は、毛先をくるんと巻いた長い髪の毛を耳にかけると、目をキラキラさせながら、水槽を優雅に泳ぐイルカに視線を移す。

その耳元には、僕が、プレゼントした、ガーネットのピアスが光っている。


『それでは、最後まで、どうぞお楽しみください!』

調教師達の手のひらと、ホイッスルの音に合わせて、3頭のイルカ達が、一斉に飛び上がる。

そして、調教師達が飛び込むと、イルカ達が、鼻先で、足裏を押し、こちらに向かって、調教師のお姉さん達が、手を振る。

「きゃあっ、凄い」

実花子が、顎下で、一生懸命手を振り返している。

「わ、千歳、輪くぐり上手ー。可愛いーっ」

「本当だね」

僕は、イルカもそこそこに、横目で実花子を見るのに一生懸命だ。

会社では、いつも髪を一纏めにして、スーツに身を包み、膨大な仕事量を正確にテキパキと捌いていく、完璧な秘書像しか思い浮かばないであろう実花子のこんな姿を見れるのは、きっと世界中で僕だけだ。

夕焼けを背にして、ショーの最後に3頭のイルカ達が、クロスしながら、一斉に飛び上がり、バシャンッと音を立てて、水の中へと消えていく。
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