独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
8.想い人
想いが通じて、一カ月ほどが経った。
八月初旬の日差しはきつく、ほんの少し動いただけで体がじっとりと汗ばんでしまう。
瑛さんはすっかり本社副社長として社内外に周知され、多忙な日々を送っている。
私はくれぐれも無理はしないように、と厳命されている。
「ねえ、さっき秘書課に書類を届けに行ったら副社長がいらっしゃったの! すっごくカッコよかった!」
「いいなあ。秘書課、私が行けばよかった。私も副社長を見たい!」
課内の女性の同僚たちが黄色い声を上げている。
異動したての頃は若干驚いたが、よくある光景らしい。
直接職場で接していなくとも、彼の噂は自然と耳に入ってくる。
今でもまだ、自分の今の状況を夢のように感じる。
本社に勤務すると、私のような一般社員が簡単に近づける人ではないと改めて痛感する。
優しい親友は心配し、新しい職場環境はどうかと度々電話をくれる。
芙美には瑛さんの了承も得て、妊娠を告げている。
先週の電話では悩みを聞いてくれた。
『――へえ、さすがは御曹司。どこに行っても卒なくこなすわねえ』
『でも最近は以前に比べたら帰宅もずいぶん遅いの。時折本家に戻ったりもしているし、忙しいんだと思うわ』
『本社の業務はやっぱり大変なのかしらね。本家って実家でしょ? なんでわざわざ?』
『お義父様がいらっしゃるからかな? 業務相談とか……』
思いつくままに答えると、親友が訝しげな声を出した。
『そんなの社内でできるし、電話もメールだってあるじゃない。わざわざ実家に帰らなきゃいけないほどの用事なんて私的なものじゃないの?』
『どう、なのかな』
返答する声が尻すぼみになる。
八月初旬の日差しはきつく、ほんの少し動いただけで体がじっとりと汗ばんでしまう。
瑛さんはすっかり本社副社長として社内外に周知され、多忙な日々を送っている。
私はくれぐれも無理はしないように、と厳命されている。
「ねえ、さっき秘書課に書類を届けに行ったら副社長がいらっしゃったの! すっごくカッコよかった!」
「いいなあ。秘書課、私が行けばよかった。私も副社長を見たい!」
課内の女性の同僚たちが黄色い声を上げている。
異動したての頃は若干驚いたが、よくある光景らしい。
直接職場で接していなくとも、彼の噂は自然と耳に入ってくる。
今でもまだ、自分の今の状況を夢のように感じる。
本社に勤務すると、私のような一般社員が簡単に近づける人ではないと改めて痛感する。
優しい親友は心配し、新しい職場環境はどうかと度々電話をくれる。
芙美には瑛さんの了承も得て、妊娠を告げている。
先週の電話では悩みを聞いてくれた。
『――へえ、さすがは御曹司。どこに行っても卒なくこなすわねえ』
『でも最近は以前に比べたら帰宅もずいぶん遅いの。時折本家に戻ったりもしているし、忙しいんだと思うわ』
『本社の業務はやっぱり大変なのかしらね。本家って実家でしょ? なんでわざわざ?』
『お義父様がいらっしゃるからかな? 業務相談とか……』
思いつくままに答えると、親友が訝しげな声を出した。
『そんなの社内でできるし、電話もメールだってあるじゃない。わざわざ実家に帰らなきゃいけないほどの用事なんて私的なものじゃないの?』
『どう、なのかな』
返答する声が尻すぼみになる。