独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
必死に記憶をたどり、もしかしたらと思う出来事を思い出す。



「あの、ホテルでマナーを教えていただいた日なら、手の位置を直してもらっただけだし、お義母様は遅れて来られて……」



「嘘をつくな。俺は実際に目にしたんだ」



低い声でバッサリと切り捨てられる。



まさか、あのとき近くにいた? 



それならなぜ、声をかけてくれなかったの? 



話の内容を聞けば、勘違いするはずはないのに。



やましさはまったくないけれど、マスコミ関係者に撮られたのは私の責任だし、注意力が足りないと言われたらその通りだ。

彼の剣幕が恐ろしいが、誤解を解かねばと当時の状況を細かく説明した。

義母にも確認をとってほしいと頼んだが、彼は渋面を浮かべたままだった。



「……もういい、金輪際周囲に誤解を与えるような行動はするな。この件は俺が処理する。今後誰になにを問われてもすべて無視しろ」
 


冷たく命令され、うなずくしかできない。



「わ、私、本当に離婚なんて……」



「もういいと言った。この話は終わりだ。今さら離婚なんてできるわけがないだろ」



吐き捨てるような物言いに、心が軋む。



離婚できるなら、したいと思っているの? 



私の弁明は、本当は残念だった?



暗く、重い気持ちが胸の奥に広がっていく。
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