独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「話してほしいって頼んでもダメなの……?」



ひとつの、賭けのようなものだった。



これ以上突き放さないで。



朝霞さんじゃなく、私を優先して。



口にできない想いを込める自分は、卑怯で臆病だ。

でも願わずにいられなかった。

荒れ狂う心と焦燥感で泣きたくなるのを、拳を握りしめて必死に耐える。



「――里帆と俺のことを、話す必要はない」



端的に告げられた言葉に、心が粉々に砕けた気がした。

心の奥底では、寄り添ってわかり合えていると信じたかった。

少しずつでも朝霞さんより優先されていると自惚れたかった。

小さな希望を持ちたかった。

不安に負けて、試すような真似をした結果がこれだった。



「……そ、う」



無理やり吐き出した声は、自分のものではないようだった。

心が凍りついて、体が急速に温度を失っていく。

足元がぐらぐらして覚束ない。



「……もう一度言うが、離婚はしない。一貴とのレッスンは打ち切りだ」



無情に言い放ち、スッと私の横を通り過ぎ自室へ向かう。



なぜ行動を急に制限するの? 



信じてくれないの?


「なんで……?」



疑問が口からこぼれ落ちる。

ただ、あなたと並んで恥ずかしくない女性になりたくて。

夫婦なのだから、なんでも話してほしいだけなのに。


がらんとしたリビングで、私の問いかけに答えてくれる人は誰もいなかった。
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