独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
「知らなくて、すみません」



掠れた、小さな声で謝罪する。

腹立たしさはあるが、油断したのは自分だ。

梁瀬本家を初めて訪れる際にも、油断するな、信用するなと瑛さんに苦言を呈されていたのに。

私はどこまで不出来な妻なのか。



「違う世界から来られたんですもの、わからなくて当然ですわ。でも、もうご無理なさらなくていいんじゃありません? 瑛さんには相応しいお相手が戻られましたもの。そろそろ肩の荷を降ろされたらいかがです?」



「え……?」



「里帆さんが戻られたのをご存知でしょう?」



彼女の唇が、柔らかな弧を描く。

口調がねっとりとした、嫌なものに変わっていく。

 

「人には然るべき、弁えるべき立場があるでしょう。あなたに次期梁瀬の当主の妻は務ま
りませんわ。里帆さんが戻られた今、あなたに価値はまったくありませんもの。万が一、里帆さんがお断りされた際には、私が控えておりますし」



身勝手すぎる言い分に呆れる。

言われなくても、不釣り合いだと十分わかっている。

日菜子さんに比べたら教養もないし、梁瀬家に関する知識も薄い。


でも、彼に選ばれた。

それだけが、なにも持たない私の、唯一の自信だったのに。

今では、揺らぎかけている。

頭の中に思い浮かぶのは私を見つめる苦々しげな瑛さんの表情だった。



夫にも親族にも求められない私は、なんでこの場にいるのだろう?



必死に守ってきた立場や矜持が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく気がした。
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